MAGAZINE / 02 · HEAT

火山がない土地でも深い地下の熱を利用して温かい温泉が湧き出す。地下深くへ進むほど温度が上がる地温勾配の仕組みが働く。雨水が地層の奥深くを巡りながら熱を蓄えて地表へ引き上げられる。

地球・地学

地熱で温められた湯と湯気が火山岩の間から湧き出す様子

温泉といえば火山のマグマを思い浮かべるのが一般的な見方である。火口から噴煙が上がり、地熱で煮えたぎる熱泥の脇から白濁した湯が湧き出している光景は、誰もが知る温泉地の典型的な姿といえる。しかし日本列島を見渡すと、活火山の存在しない関西や中国地方、あるいは関東の平野部にも温かい温泉が数多く存在している。

環境省の令和4年度温泉利用状況の統計でも、全国に2万7969カ所の源泉が確認されているが、そのすべてが火山の直下にあるわけではない。たとえば近畿地方には現在活動している活火山が一つも存在しない。それにもかかわらず、兵庫県の有馬温泉のように90度を超える高温の湯が古くから自然に湧き出している。また、東京都内の市街地や千葉県の平野部でも、掘削によって40度前後の湯が汲み上げられ、銭湯や日帰り浴場の湯船を満たしている。マグマだまりのない場所で、どうして水が熱せられるのだろうか。温泉の熱源を火山だけに求めていたのでは、この現象の説明がつかない。

近代に入り、各地でボーリングによる地下の掘削が盛んに行われるようになった。明治から大正、そして昭和の半ばから後半にかけて、鉱山開発や温泉開発の現場では多くの坑井データが蓄積され始めた。その結果、地球科学者たちは地下の温度に関する一つの規則性を見出した。地下へ向かって100メートル深くなるごとに、温度がおおよそ3度ずつ上昇するという地温勾配の存在である。

地表の平均気温が15度であれば、地下1000メートルに達するころには45度前後まで温められる計算になる。地下1500メートルまで掘り進めば、地温は60度近くに達する。岐阜県温泉協会の資料でも、木曽川河口周辺などの非地熱地帯において1500メートル前後のボーリングで高温の地下水が得られることが示されている。かつては掘り出すことができなかった深い場所の熱水も、掘削技術の進歩によって地表へと引き上げられるようになった。

こうした地下の熱環境を利用して、火山のない地域でも温水を得る技術が確立された。さらに、2000年代以降に大深度ボーリングの技術が進歩すると、山間部だけでなく平野部の地下深くに眠る熱水も汲み上げられるようになった。都市部のビル街や住宅地の一角で温泉施設が開設できるようになったのは、この地温勾配と掘削技術の組み合わせによるものである。

火山がない土地で湧く非火山性の温泉は、主に深層地下水型と呼ばれている。地表に降った雨や雪は、長い年月をかけて地中にしみ込み、地下深くへとゆっくり浸透していく。何百年、あるいは何千年もの歳月をかけて地下1000メートル以上の深層に到達した地下水は、周囲の岩石から熱を受け取って温められる。こうして温められた地下水が、断層や地層の割れ目といった通り道を通って再び地表へと押し上げられる。

例えば、岐阜県の木曽川河口周辺や三重県の木曽岬温泉では、こうした深層地下水を利用したボーリングによる高温泉が多数利用されている。汲み上げられた湯は50度前後の温度を保っており、火山の恩恵がなくとも十分に熱い湯船を仕立てることができる。

また、太古の海水が地層の中に閉じ込められたまま残る化石海水型と呼ばれる温泉も存在する。数百万年前の堆積層に含まれた古代の海水が、地層の重みと地熱によって温められ、濃密な成分を保ったまま地下に眠っている。これらは地下の比較的浅い場所にあっても、海水由来のナトリウムや塩素などの塩分を多量に含んでいるため、岐阜県の根尾うすずみ温泉のように温泉法が定める基準をクリアして温泉として認められる。

さらに、兵庫県の有馬温泉のように、神戸大学海洋底探査センターなどの研究で明らかになったように、活火山がないにもかかわらずプレートの沈み込みに伴う高温流体が直接もたらされる特異な例もある。太平洋側から沈み込むフィリピン海プレートが地下深くで脱水作用を起こし、絞り出された高温の流体が数百万年の時間をかけて地表へと上昇してくる。マグマを介さずとも、地球内部の地殻変動そのものが地表へ高温の湯を送り届けている。

日本列島の地下を測ると、場所による熱の偏りがはっきりと見えてくる。防災科学技術研究所が東北地方で行った高感度地震観測網の坑井データに基づく調査では、奥羽山脈付近の地下が非常に高い温度を示す一方で、三陸沿岸部では地下5キロメートルでも100度程度にとどまることが明らかにされている。

火山フロントと呼ばれる境界線の内側では、地下数キロメートルにマグマだまりが存在するため、わずか数百メートル掘り進めるだけで100度近い沸騰泉に突き当たる。これに対して、火山フロントの外側に位置する前弧域や沿岸部では、地下の熱の流れが穏やかであり、深い場所まで掘削しなければ湯温が上がらない。このように、火山活動が活発な帯状の地域と、そうでない地域の間では、地下の温度構造に大きな隔たりがある。

日本列島が太平洋プレートやフィリピン海プレートなど複数のプレートが沈み込む変動帯に位置していることが、こうした地域ごとの熱環境の差を生み出す根本的な背景となっている。火山性温泉がマグマという直接的な熱源によって短時間で湯を熱するのに対し、非火山性の温泉は深い地層を何年もかけて巡る気の遠くなるような時間の蓄積によって支えられている。熱の由来と水のたどる経路のちがいは、湧き出す温泉の性質そのものを大きく分けている。

日帰りの湯や宿の浴室で湯船の前に立つと、底面や湯口から静かに、あるいは勢いよくお湯が注がれている。その多くは、自然に湧き出た自噴泉だけでなく、ポンプで汲み上げられた掘削泉である。脱衣所に掲げられた温泉分析書に目を凝らすと、採取場所の欄に「地下1500メートル」「動力揚湯(ポンプで汲み上げる)」といった文字が並んでいるのをよく目にする。

環境省の令和4年度温泉利用状況の統計にも示されるように、日本全国の源泉の多くは人手によるボーリングによって支えられている。全国2万7969カ所の源泉のうち、動力によって汲み上げられている源泉は1万5000カ所以上にのぼる。太古の海水を思わせる塩分を帯びた茶褐色の湯や、無色透明ながら肌に馴染む深層地下水は、かつて人が1000メートル以上の深さまで大地を穿ったことの証拠でもある。

湯口から注がれる湯の温度を手で確かめるとき、そこには地中の岩盤を通過してきた確かな熱がある。パイプを通じて地上へと上がってきた湯は、大深度ボーリングという土木技術と、地中の熱環境が重なり合って初めて湯船へと届いている。湯船から立ち上る湯気を見つめると、そこには地球内部の地熱が長い時間をかけて運んできた確かな手触りがある。

温泉の温かさは、必ずしも火山の爆発的なエネルギーだけを頼りにしているわけではない。足を踏み入れている大地の奥底では、絶えず地球内部の熱が伝わり、しみ込んだ水を温め続けている。

火山がない土地であっても、深海から続くプレートの運動や、数千メートルの地層をめぐる水と熱の循環が働いている。地表で降った雨が地下1000メートルの岩盤を浸透し、100メートルごとに約3度ずつ上昇する地温勾配によって温められ、1500メートルのボーリング坑井を通って地上へと注がれる。湯船に満たされたお湯は、地球が足元で営む巨大な熱の仕組みのほんの一端を映し出している。

ゆーたなかお

温泉天国 - Onsen Paradise 運営

旅と食と温泉好き。どこにでもいます。

SOURCES

  1. 活火山がないのに有馬温泉が湧くのはなぜ?その謎を解明した、神戸大学マグマ学者に聞いてみた。 | ほとんど0円大学本文執筆時に Google Search で参照(観測 2026-09-10)
  2. 岐阜県温泉協会公式サイト本文執筆時に Google Search で参照(観測 2026-09-10)
  3. 火山と温泉の関係:火山がなくても湧く理由本文執筆時に Google Search で参照(観測 2026-09-10)
  4. j-hss.org本文執筆時に Google Search で参照(観測 2026-09-10)
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  6. 温泉のメカニズム | 日本温泉協会本文執筆時に Google Search で参照(観測 2026-09-10)
  7. 神奈川県温泉地学研究所 - II−2 火山性と非火山性温泉本文執筆時に Google Search で参照(観測 2026-09-10)
  8. 近畿地方に活火山がなく有馬温泉が湧く原因を解明 | 神戸大学ニュースサイト本文執筆時に Google Search で参照(観測 2026-09-10)
  9. 令和4年度成果発表会本文執筆時に Google Search で参照(観測 2026-09-10)
  10. 温泉はどうやって湧くのか:水・熱・通り道の仕組み本文執筆時に Google Search で参照(観測 2026-09-10)
  11. 温泉はなぜわく? なぜ体にいい? 温泉のナゾとふしぎ | Honda Kids(キッズ) | Honda公式サイト本文執筆時に Google Search で参照(観測 2026-09-10)
  12. なぜ温泉は湧くの?地質学から見た温泉の神秘本文執筆時に Google Search で参照(観測 2026-09-10)
  13. 地温勾配:用語辞典 | JOGMEC JOURNAL 独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構[JOGMEC]本文執筆時に Google Search で参照(観測 2026-09-10)
  14. 地熱学会:地熱エネルギー入門:地熱資源の性質本文執筆時に Google Search で参照(観測 2026-09-10)